アルツハイマー病

アルツハイマー病について知っておきたいこと

● どんな病気

認知症の原因となる病気にはさまざまなものがありますが、最も多いのがアル

ツハイマー病です。

アルツハイマー病は脳の神経細胞が死滅し、脳が萎縮していく病気です。

萎縮は、記憶を司る脳の海馬という部分から始まり、脳全体へと広がっていきます。

病気は徐々に進行していきます。

初めは日常生活でそれほど困ることはありませんが、次第にさまざまな支障が生じるようになります。

 

アルツハイマー病の発症には、アミロイドβたんぱくとタウたんぱくという2つのたんぱく質が脳内に蓄積することが関与していると考えられています。

これらがどのように関わって病気が発症するのかということについては、いくつかの仮説が発表されていますが、今のところすべてが確定したわけではなく、引き続き世界中で研究が進められています。

 

● 主な症状

認知症の代表的な症状には、記憶障害(物忘れ)、物事を順序よく実行できなくなる実行機能障害、時間や場所が把握できなくなる見当識障害があります。

これらを中核症状(認知機能の障害)といいます。

また、何をしてよいのかわからなくなり、意欲低下が起こることもよくあります。

 

中核症状のほか、妄想、うつ状態、興奮や暴力、徘徊などが起こることがあります。

このようなさまざまな行動・心理症状を BPSD (周辺症状)といいます。

 

アルツハイマー病では、中核症状は必ず起こりますが、二次的に現れる BPSD は、その人の性格、環境、人間関係など、さまざまな要因が絡み合って起こるため、患者さんごとに現れ方や程度が異なります。

人によって、いくつもの症状が重なることもあれば、全く起こらないこともあります。

病気が進行するに従って、自分でできることが減り、介助が必要なことが増えてきます。やがて運動機能の障害が起こり、歩行機能が失われて寝たきりになり、命に関わる肺炎などの合併症も起こしやすくなります。

 

● 患者さんが感じていること

一般に「認知症といえば記憶障害から始まる」と考えられがちで、確かに物忘れが目立つようになると、周囲の人も「あれ?」と思うことが増えてきます。

しかし、多くの場合、その前に実行機能障害が始まっています。

実行機能障害が起こると、物事を順序立てて行えなくなり、例えば、主婦なら「買い物や料理の手順がうまくいかなくなる」、働いていれば「仕事がたまったり、周囲についていけなくなる」などにより、周囲の人も異変に気付きやすいといえます。

ところが、家にいて、自分で家事などをする必要がない人の場合は、失敗をする機会も

少なく、周囲の人もなかなか異変に気付きません。

 

認知症の患者さんは、自分が病気である自覚がないと思われがちですが、患者さんは自分に起きている異変には気付いていることが多く、「何かおかしい」と思っています。

例えば記憶障害では、次のようなことが起こっています。

 

健康な人の物忘れでは、その情報が脳に残っているので、言われれば思い出すことも可能です。

本人は、「忘れてしまった」「最近物忘れが多い」と自覚しています。

 

ところが、アルツハイマー病の物忘れでは、その情報自体が脳から抜け落ちるため、言われても思い出すことができません。

皆が「約束を忘れたでしょう」と指摘しても、患者さんは「忘れた」とは思わず、何のことだかわかりません。

約束をしたかどうかさえわからないのに、皆に責められます。

訳のわからない不安に駆られ、「自分の周囲で不気味なことが起きている」「いろいろなことがうまくいかない」などと感じているのです。

 

 

早期診断・治療により、今後に備える

● 早期診断のメリット

現在のところ、アルツハイマー病を根本的に治す方法はありません。

しかし、病気をきちんと診断し、早期から治療を受けることは大切です。

 

患者さんは過去も未来もない空間にぽつりとI人で浮いているような不安を感じています。本人の判断力がまだ残っているうちに、病気のことを話して、医師や周囲の人が、患者さんが感じている不安に寄り添い、支えていきます。

定期的に通院することで、医師との信頼関係を結ぶことができれば、BPSDが起こる可能性を下げることも可能だと考えられます。

また、BPSDが起こったとしても、早めに対処することができます。

 

家族など周囲の人にとっても、病気が進行してからいきなり「アルッハイマー病です」と言われたら、「さあ大変だ」と、慌ててしまいます。

早期に診断を受けることで、周囲の人も少しずつ気持ちの整理をつけて心の準備を進めたり、介護サービスなどの情報を集めたり、家庭での介護が困難になったときのことを考えるための時間を得ることができます。

 

また、頭部の外傷や脳の疾患(例えば「特発性正常圧水頭症」)、ホルモンの異常などが原因となって認知症が起きていることもあります。

早期の受診によって、それらの診断・治療ができれば、症状が改善する場合もあります。治療が可能な病気を見逃さないことは垂要です。

 

● 医療機関を受診するとき

認知症を疑ったときは、まずかかりつけ医に相談し、地域の専門医を紹介してもらうとよいでしょう。

 

自分で専門医を探すときは、市区町村の相談窓口や地域包括支援センターなどに相談してください。

 

受診する科としては、精神科、神経内科、老年内科、内科や、物忘れ外来などの専門外来があります。

老年内科や物忘れ外来があれば確実です。

 

医療機関では、問診、認知機能検査、画像検査(CT、MRIなど)、血液検査(例えば甲状腺機能検査)などを行って、認知症の有無、認知症が疑われる場合は、その原因となる病気について調べます。

さらに詳しく脳の検査を行うこともあります。

 

● 主な治療

アルツハイマー病の治療には、薬物療法と非薬物療法があります。

◆ 薬物療法

現在、アルツハイマー病に処方される薬は、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンの4種類。

ドネペジル、ガランタミン、メマンチンはのみ薬、リバスチグミンは貼り薬です。

いずれも、一時的に症状を改善したり、進行を遅らせる目的で使用されます。

 

薬の効果は限定的で、人によって異なりますが、アルツハイマー病と診断された場合には使用が勧められています。

薬の処方のために定期的に通院し、患者さんや家族の不安が減少し、医師との信頼関係が築けるなどのプラス面もあります。

 

副作用としては、のみ薬の場合は吐き気や下痢など、貼り薬の場合はかゆみなどの皮膚症状などが起こることがあります。

患者さんが薬をきちんとのめる環境にあるか、副作用が起きた場合に周囲の人が気付けるかなどに留意し、効果と副作用のバランスはどうか、症状が進行した場合はいつまで薬を使い続けるかなどについても考える必要があります。

 

◆ 非薬物療法

患者さんの不安が強く精神状態が不安定な場合は、BPSDが現れたり、残された認知機能が十分に発揮できなくなったりしがちです。

 

そこで、昔の思い出を語る回想法、脳の活動を刺激する認知リハビリテーションなど、さまざまな方法で患者さんの心や認知機能に働きかけます。

方法や効果は確立していませんが、一部の医療機関や福祉施設で行われています。

なお、回想法などは、家庭で取り入れることもできます。

 

ここで注意が必要なのは、リハビリテーションといっても、「失われた機能を回復させる」「患者さんに学習させる」などと考えないことです。

患者さんができないことを要求して、苦痛を味わわせないようにします。

 

● かかりつけ医、かかりつけ薬局

病気が進行すると、患者さんは、さまざまな体の不調が起こっても、言葉で症状を訴えられません。

定期的に専門医を受診するにしても、住んでいる地域に患者さんの心身についてよく知っていて、何でも相談できるかかりつけ医がいれば安心です。

家族も相談できるような関係が築ければ理想的です。

 

また、アルツハイマー病の薬のほか、ほかの持病があって薬をのんでいる場合も多いので、かかりつけ薬局(かかりつけ薬剤師)をもち、薬の重複やのみ合わせのチェックをしてもらいましょう。

 

参考 

きようの健康 2016.4

 

(東京都立松沢病院院長・斎藤正彦先生)

 

医療関係者用

アルツハイマー型認知症

http://wellfrog4.exblog.jp/19272195/

 

糖尿病患者に潜在するAD患者の早期発見・早期介入を

http://wellfrog4.exblog.jp/17979093/

 

糖尿病合併認知症~早期診断・介入と適切な血糖コントロール

http://wellfrog4.exblog.jp/18011330/

 

耐糖能異常の段階から認知症リスクが増加

http://wellfrog4.exblog.jp/17979083/

 

英DOMINO試験

進行したアルツハイマー病にはドネペジル? メマンチン? それとも併用?

http://wellfrog4.exblog.jp/17979054/