レビー小体型認知症
「レビー小体」という変異したたんぱく質の塊が脳に現れ、神経細胞を障害して起こるのがレビー小体型認知症です。
レビー小体がどこに現れるかで、さまざまな症状が出てきます。
レビー小体型認知症とは
レビー小体という変異したたんぱく質の塊が脳に現れる
レビー小体型認知症は、脳の中に異常なたんぱく質の塊が現れることで起こります。
この変異したたんぱく質がレビー小体で、これによって脳の神経細胞が死滅し、脳が部分的に壊れてしまいます。
時間の経過とともにレビー小体の現れる範囲が広がっていき、さまざまな症状が現れます。
厚生労働省の発表では、2012年時点でレビー小体型認知症の患者数は約
20万人と推計されています。
認知症全体の約1割で、約50万人とする説もあります。
75歳以上の後期高齢者に発症することが多く、やや男性に多いのが特徴です。レビー小体だけが原因で起こる純粋型は、30~40歳代で発症しやすいのですが、多くはアルツハイマー病の変化も伴って、75~80歳頃に発症します
レビー小体型認知症の症状
実際にはいない人や虫がみえる
次のような症状が現れてきます。
① 実際にはいない ”人” や ”虫” などがいると訴える・・・幻視という症状です。
特に暗がりで訴えることが多く、何もないのに「床が水でぬれている」「火や煙が起きている」などと訴えることもあります。
脳の後方にある視覚連合野が、レビー小体で障害されたために起こる症状と考えられています。
② ぼんやりしているときとはっきりしているときの差が激しい・・・認知の変動という症状です。
1日のなかで変動することも、数日の周期で変動することもあります。
なぜ起こるのかはわかっていません。
さまざまな症状が急に現れ、急に消えるのも、この病気の特徴です。
③ 小刻みにたどたどしく歩き、よく転倒しそうになる・・・パーキンソン症状と呼
ばれています。
パーキンソン病も脳にレビー小体が現れる病気で、病気の起こる部位が大脳皮質だとレビー小体型認知症に、脳幹だとパーキンソン病になります。
神経伝達物質のドパミンが減少することで、手足への情報伝達がうまくいかなくなり、筋肉を動かしにくくなります。
進行に伴ってパーキンソン症状が強く出る人もいますし、あまり出ない人もいます。
④ 睡眠中、大きな声で寝言を言う、手足を激しく動かす・・・夢を見ているレム睡
眠のときに現れ、レム睡眠行動異常症と呼ばれます。
レム睡眠のときは筋肉が緩んでいて、普通は脳からの指令が届きません。
ところが、レビー小体型認知症の場合、脳の指令が筋肉に届いてしまうため、夢の内容に影響された異常行動が起こります。
起きた直後に寝ぼけて夢の続きの話をすることもあります。
⑤落ち込むことが多くなる・・・うつ症状は前頭葉の一部が障害を受けることで起こ
ります。
また、レビー小体型認知症はアルツハイマー病に比べて物忘れの程度が軽い傾向があります。
そのため、患者さん白身が症状を白覚していることが多いのも特徴です。
⬛︎ 2つ以上当てはまる場合は受診を
以上の症状のうち2つ以上が当てはまる場合は、レビー小体型認知症を疑い、医療機関を受診することをお勧めします。
レビー小体型認知症は、アルツハイマー病と比べて進行が早いので、早く受診することが大切です。
ただし、この病気の診断や治療を専門的に行っている医療機関や医師は多くありません。
なぜなら、レビー小体型認知症は、比較的発見の新しい病気で、診断・治療のしかたが広まっていないからです。
特徴的な症状がそろっていない場合には、診断が難しくなり、アルツハイマー病やうつ病などと診断されてしまうこともあります。
レビー小体型認知症は薬に敏感に反応し、特に脳に作用する薬で副作用が出やすいため、例えばうつ病の薬をのんで症状が悪化する可能性があります。
アルツハイマー病やうつ病などで治療をしているのに改善が見られず、幻覚やパーキンソン症状を伴うようならレビー小体型認知症を疑う必要があります。
レビー小体型認知症の診断
問診や心理テスト、手足の動きのチェックなどを行う
家族を交えた問診や心理テストで、どのような症状が現れているかを調べます。
次に、手足の動き、歩き方をチエックし、パーキンソン症状を確認します。
寝た状態と立った状態での血圧測定も行います。
自律神経症状も出やすいので、そのIつである起立性低血圧がないかを確認するのです。
レビー小体型認知症と診断されるのは、認知障害があり、それに加えて幻視、認知の変動、パーキンソン症状の3つのうち2つ以上がある場合です。
すべてそろっていれば、それだけで診断が確定します。
すべてを満たしていない場合は、画像検査が行われます。
画像検査としては、脳の血流分布を映し出すSPECT、ドパミンが脳の大脳基底核という場所できちんと分泌されているかを見るドパミン・トランスポーター・イメーング、自律神経の働きを見る心筋シンチグラフィが行われます。
レビー小体型認知症の検査(まとめ)
記憶障害などの認知障害に加え、幻視、認知の変動、パーキンソン症状のうち2つ以上当てはまるとレビー小体型認知症と診断される。
すべての症状を満たさない場合は、画像検査が行われる。
問診や心理テスト→手足の動き、歩き方のチェック→寝た状態と立った状態での血圧測定→(場合によって)SPECT、ドパミン・トランスポーター・イメージング、心筋シンチグラフィーなどの画像検査
レビー小体型認知症への対処法
アルツハイマー病と同じく抗認知症薬を使うのが基本
レビー小体型認知症と診断された場合は、次のように対処します。
● 抗認知症薬
レビー小体型認知症の根本的な治療薬は開発されていません。
ただ、アルツハイマー病と同様に、神経伝達物質のアセチルコリンが減少するの
で、その分解を抑える抗認知症薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン
など)を使用します。
症状はいったん改善することが多く、幻視の9割は改善し、妄想や誤認もそれなりに改善します。
ただし、進行に伴って薬の効果は落ちてくるため、早い段階で治療を始めることが
大切です。
向精神薬は、使わないと精神症状が抑えられない場合に限り、慎重に使用します。ほかに漢方薬を使うこともあります。
いずれにしても、薬は必要最少量を使うのが基本です。
● 幻視への対策
夜や暗がりで起こりやすいので、部屋を明るくします。
また、模様などを見間違えることもあるので、室内のデザインをシンブルにします。
幻視が起きたときには、家族が対象物に近づいたり触ったりして、「何もいないでしょ」と確認して幻視であることを理解してもらいます。
● パーキンソン症状に対する薬
パーキンソン病の薬を使います。
症状が強いほど、車いす生活、寝たきり生活に進行しやすいので、薬による治療も欠かせません。
この病気は薬に敏感に反応するため、治療薬以外にも、直接関係ないはずの薬にも影響されて、調子がよくなったり、悪くなったりします。
少しでも症状や体調に変化があったときには、医師に知らせることが大事です。
参考
きょうの健康 2016.4
かわさき記念病院 長濱康弘 副院長